関東山地三波川変成域には、埼玉県児玉町地域に黒雲母帯が発達している。この地域は主として泥質におよび砂質の結晶片岩から成り、少量の塩基性岩と石英片岩を伴う。地質構造は水平に近く、ゆるやかに北あるいは南に傾く。泥質・砂質片岩にみられる主要な鉱物組合せは、緑泥石+白雲母、ざくろ石+緑泥石+白雲母、黒雲母+ざくろ石+緑泥石+白雲母および黒雲母+緑泥石+白雲母である。黒雲母を含むものは北西部に、緑泥石+白雲母は最北部と南部に、ざくろ石+緑泥石+白雲母はその中間に分布する。石墨化度の分布もそれと調和的である。そこでこの地域を緑泥石帯、ざくろ石帯および黒雲母帯に分けた。黒雲母アイソグラッドにおける石墨化度は36である。泥質・砂質片岩のざくろ石は累帯構造をもち、核部から縁部にむかってFeが増加しMnは減少する。しかし最縁部のFel(Fe+Mn)は広い変動幅を示す。黒雲母アイソグラッドにおける緑泥石-ざくろ石間のMg-Fe分配係数は約0.05である。 以上の結果を四国中央部三波川変成域のものと比較してみる。(1)黒雲母アイソグラッドにおける石墨化度は、本地域では約36であるのに対し、四国中央部では約50である。(2)ざくろ石縁部のFel(Fe+Mn)の変動幅は本地域では広いが、四国では狭く、かつ全体としてFeとMgに富む。(3)黒雲母アイソグラッドにおける緑泥石-ざくろ石のMg-Fe分配係数は、本地域では約0.05であるが、四国では約0.08である。以上の違いは、本地域の変成条件が四国中央部に比して、より低温かつ低圧であったことを示すものである。
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