バデレアイト(単斜晶ZrO_2)は正方晶・立方晶の高温多形と斜方晶に属する2つの高圧多形が知られているが、これら相互間の平衡関係は不明の点が多い。本研究では、とくに高圧相の安定領域の決定と、これが添加物によって受ける影響について調べた。得られた成果は次の通りである。 1.粒径の異なる出発物質を、400℃・6GPaの条件で処理して得られる斜方I相は微粒のもののみ凍結可能なことが判明した。ダイヤモンドアンビルによるその場観察で、粒径の細かいものほど転移圧が高圧側にずれることをみとめた。これに対し、12GPa以上の圧力範囲で出現する斜方II相は粒径に無関係に凍結可能であった。2.凍結された斜方I、II相および単斜晶相について、熱量計を用いて生成エナタルピ-を求め、また加圧下でのx線回析から体積弾性率を算出し、さらに合成実験から隣接する2相が共存する条件を導入して単斜ー斜方Iおよび斜方IーII間の相境界はそれぞれT(℃)=335ー102P(GPa)(細粒)とT(℃)=300P(GPa)ー4300で与えられることを結論した。18GPa以上の高圧域から急冷した試料はすベて斜方晶であること、および高温高圧下での電気伝導度測定から斜方II相の安定領域に隣接する高温相は立方晶相の可能性が高いとの結論を得た。以上を総合し、単斜ー斜方Iー斜方IIー立方晶相間の安定性を決定することができた。3.高圧相転移の際の添加物の影響を調べるため、2mol%Y_2O_3を加えた試料の高圧合成実験を試みた。出発物質は単斜晶・正方晶の2相共存であるが、これを前述の実験で得られている斜方I相の安定領域で処理すると、単斜晶相のみが減少し、ほぼ同量の斜方I相が合成されるが、正方晶相の量は変化しなかった。同じ試料を斜方II相の安定域で処理すると、すべて高圧相に転換することから添加物の効果は斜方I相の場合に顕著であることが判明した。
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