マントル深部を想定した超高圧高温条件下における、鉱物の構造及び物性の計算機シミュレ-ションでは、分子動力学法は、極めて有効な手段である。一方、分子動力学法は、原子又はイオンの運動に古典力学を適用するので、高精度な議論を行うためには、得られた結果に量子力学に基づく補正項を加える必要がある。我々はまず、自由エネルギ-のウイグナ-・カ-クウッド展開を用いることにより、結晶の構造及び種々物性について、量子補正を求める一般方法を導いた。更に、分子動力学法と上述の量子補正を組み合わせることにより、マントルの重要な成分鉱物であるMgOペリクレ-スとMgSiO_3ペロフスカイトの両者について、それらの結晶構造、熱膨張率、圧縮率を広範な温度圧力範囲にわたって、極めて高精度で再現することに成功した(裏面の研究発表、雑誌論文の項参照)。 続いて、同様な計算機シミュレ-ションにより、MgOペリクレ-スとMgSiO_3ペロフスカイトについて、下部マントルの温度、圧力条件下での密度及び圧縮率を求め、得られたシミュレ-ション結果と、地震波、高温高圧実験からの観測デ-タを比較することにより、下部マントルの鉱物組成を推定した。 加えて、マントルの重要な成分であるSiO_2のモデル物質としてのTiO_2に注目し、TiO_2の4種の多形(ルチル、アナテ-ゼ、ブルッカイト及びTiO_2II)に適用可能な二体間ポテンシャルモデルを高精度で求めるとともに、得られたポテンシャルを用いた分子動力学法により、ルチルとTiO_2IIの両者について、超高圧下での圧力誘起相転移の可能性と転移のメカニズムの詳細を検討した。
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