研究概要 |
スメクティック液晶相は、方位の揃った棒状分子が1次元の周期的密度分布をもって配位した状態である。本研究は、この構造が安定な相として実現する機構を分子理論的に解明することを主眼としたが、2次元の周期的密度分布をもつコラムナ-液晶相、3次元の周期的密度分布をもつ結晶相も加えて、棒状分子系で予想される諸構造を総合的に検討した。分子を無極性棒状と仮定し、長さL、直径Dの円柱をモデルとして、従来よりも精度の高い「第3ビリアル近似」を用いて系の自由エネルギ-を計算した。得られた主な結果は(1)分子間に剛体的斥力だけを仮定し、系内の平均分子密度を体積分率ηで表すと、η<ηc=0.355ではネマティック相(無秩序配位)が安定であるが、η>ηcでは波長d=1.35Lの密度波構造(スメクティックA相)が安定になり、η=ηcで2次の濃度相転移が起る。(2)平均分子密度が0.39から0.53の間では、スメクティックA相と共存して六方型結晶相が現れ、0.53以上ではこの結晶相が安定相になり、格子定数はa≒1.35D,c≒1.26Lである。(3)2次元周期のコラムナ-相は熱力学的安定相ではないが、密度0.47以上ではネマティック相よりも安定になる。(1)〜(3)の結果は、分子間斥力による排除体積効果が、棒状分子系での周期的秩序発生に本質的に重要な役割を果たすことを示しており、棒状生体高分子の溶液または融液で観測される種々の液晶相を良く説明する。(4)さらに、分子間に働く引力ポテンシャルの効果によって、η<ηcでも転移温度Tcで2次のネマティックースメクティックA温度相転移が引き起されることが結論され、Tc、d、層圧縮弾性率BなどスメクティックA相の基本的物性量に対する分子論的な表式が得られた。これらの結果は、通常の温度相転移型液晶での観測結果を良く再現している。
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