強誘電液晶カイラルスメクチックC(Sc゚)は本来バルクでは容易軸を持たず、双安定性やメモリ-効果を示さない。また弾性的なヘリカル構造を呈し、真の強誘電体とは考えられない。これに対し新しく発見されたスメクチックX(Sx)相はヘリカル構造を持たず、強いメモリ効果と分極反転に伴なう活性化電界が観測されることから真の強誘電液晶と考えられる。本研究ではこのSx液晶のメモリ-効果の機構や分極反転機構の知見を得ることおよびその界面効果との関連を研究した。ここでは各種のパルス幅の電界を加え、その電気光学的反転およびメモリ-過程を探り、また広帯域を一度で測定可能な雑音法による誘電分散の測定を行なった。また界面物性を知るために各種の界面処理を施した電極を使用してこれらの測定を行なった。結果はメモリ-の大きさが印加電圧パルスの幅に比例し線形に増加すること、界面の傷付操作を行なうことにより短いパルスでメモリ-が大きくなること、ボリビニルアルコ-ルの塗布により界面傷付操作の軽い場合と同様の結果を示すなどが得られた。また分極反転およびメモリ-効果は外部に接続する回路の性質によって大きく変わった。すなわち反転させた後に電極を短絡させるとメモリ-効果は強く保持され、一方電極を解放させると長いメモリ-効果はなく、ある緩和時定数でゆっくりと再反転しメモリ-効果は消えていくことが観測された。これは蓄積電荷効果と考えられる。以上の結果を総合し、Sx相は界面の効果をバルクまで強く受け、また界面にある不均一性によってピン止めや反転核の発生がコントロ-ルされることが結論づけられた。さらにSc゚では単一緩和で2kHz前後の緩和周波数をもつが、Sxでは単一緩和でなく、数Hzの極めて低い緩和周波数をもつことが分かった。このことによりSx相の秩序度は層間の強い相互作用によるかなり大きなゆっくりとした集団モ-ドであると結論づけられた。
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