研究概要 |
水素結合を有する電荷移動型有機半導体において、電子と水素結合中のプロトンとが同時に移動すると、これまでにない新しいタイプのラジカル性結晶が形成されることが本研究者らによって見い出されている。また、この物質の電流ー電圧特性は非線形であり、高電場の下ではスイッチング特性を示すことが判明している。この研究の目的は、この非線形電導現象を物性論的な立場から追求し、その性能向上のために分子設計に基づいた物質改良を行うと共に、素子化に必要な高効率化の条件を求めることにある。平成元年度においては、水素結合を有する錯体(キンヒドロンおよびナフトキンヒドロン)についての物性測定を中心として研究を行った。極低温、高圧下の電子吸収スペクトルおよび振動スペクトルの測定結果から、分子内の電子間反発を抑制することによって電気的性質に関する機能性が高まることが確かめられた。同時に、常圧下において、電導度の非線形性を有効に利用するためには、より一層の分子改良が必要であることも判明した。この結果に基づき、新しい錯体(ピレンをペ-スとするキンヒドロン類似誘導体)の合成を試み、単結晶育成に成功した。この結晶を用いた予備実験では、このような共役電子系の広がりを利用すれば、より容易に電子・プロトンの連動が起こることが判った。この結果は、分子設計の基本的指針、つまり結晶中における電子およびプロトン移動のパランス状態が非線形の電気的の要因であるとする設計指針が妥当であることを支持するものである。本年度はこの結晶の詳細な電導度および光電導度物性測定を行い、応用への可能性をさぐりながら、さらに物質改良を試みる。 平成元年度の研究の成果の一部は、応用物理(総合報告・,89)およびUPS(Unconventional Bhotoactive Solids,'89,San Jose)国際会議の招待講演にて発表している。
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