本複合材料は極めて薄いアルミニウム(Al)合金とCFRPの積層材である。この材料は120℃の硬化温度から室温まで冷却後構成材料の熱膨張率の差によりAl層には引張、CFRP層には圧縮の残留応力が生じる。これらの残留応力を二つの方法、すなわち繊維に張力を加えたまま硬化させる方法と、通常の方法で硬化させたハイブリッド材に、Al層に小さな塑性歪が生ずるまで、引張力を加える方法により制御した。第一の方法では未硬化のプリプレグ材の引っ張り強度が低いため制御限界応力はOMPa程度であり、Al層に圧縮応力を生じさせることは出来なかった。第二の方法は非常に簡単な方法でしかも正確に残留応力を制御できることがわかった。残留応力を低く制御された材料の引っ張り降伏応力は未制御材に比べ高くなるが破断歪は小さくなった。また圧縮降伏応力も低くなった。層間せん断強度は残留応力制御操作により低下する傾向を示した。第二の方法により制御するとAl層とCFRP層の界面の損傷が生じることがacoustic emission試験により示され、これが層間せん断強度低下の原因であると推定された。残留応力無制御材は低温度に長時間曝すと層間剥離を生ずるが、残留応力を制御することによってこれを完全に防止できる。疲労特性については残留応力制御の影響が特に顕著に現れ、き裂伸展速度はAl層の残留応力が引張から圧縮へ移行するにしたがい遅くなる。特に平均応力、応力振幅が低い条件下では、Al層の残留応力が圧縮応力に変えられたものは、き裂伸展が完全に停滞する。Al層の応力が全く等しくなるような条件下におけるAl積層材(アルミニウム単独材と考えてよい)と無制御のハイブリッド材の疲労特性を比べると、ハイブリッド材の方がはるかに優れた耐疲労性を示すことが明らかになり、このことからCFRP層の存在がAl層のき裂進展を妨げていることがわかった。
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