1.スパッタリング法により各種高分子薄膜を基板(ガラス、Cu、Ni)上に作成し、表面形状測定およびSEM観察により、膜質と成膜過程を検討した。主にPTFEスパッタ膜について、生成膜の分子構造をESCAにより検討するとともに、膜の剥離強度の検討のために定荷重繰り返し引っかき試験、および荷重一様増加形単一引っかき試験により、それぞれ膜の剥離の生じる臨界引っかき回数と臨界荷重を測定した。さらに引っ張り法により金属蒸着膜との付着強度を測定し、膜質との関係を検討した。 2.(1)成膜速度は蒸着法に劣るが、スパッタ膜の膜質(表面平滑性、ピンホ-ルフリ-)は優る。(2)スパッタPTFE膜の組成、分子構造はバルク材とは異なり、また成膜条件(放電時圧力、電力)にも依存する。PTFEの場合、ESCAによりスパッタ膜ではバルク材よりF原子が減少し、4成分の重畳したブロ-ドなClsスペクトルが観測され、分子末端、分枝、架橋の多い分子構造であると推定される。(3)両引っかき試験において、膜の剥離損傷とAE信号、摩擦力の変動との対応関係があり、AE信号の検出により簡便に膜の剥離を検出できる。(4)単一引っかきによるスパッタ膜の付着性(剥離の臨界荷重)は高分子材種、成膜条件、基板種に依存するが、基板硬度の違いの影響のため破断剥離モ-ドが異なる。(5)繰り返し引っかきでの膜剥離発生の臨界回転数(摩擦耐久性)は基板種、成膜条件に依存し、Ni基板上の膜がCu基板上よりよい。また、摩擦耐久性、臨界荷重とも高電力、低圧力で成膜した膜で大きい。(6)引っ張り法による金属蒸着膜との付着強度は、Au以外の場合、スパッタ膜面ではバルク表面でより増加し、その増加割合及び付着強度はAu、Al、Cu、Cr、Niの順に大きい。また、低圧力で成膜した膜の付着強度が大きい。 3.膜の剥離強度、付着強度に関する以上の結果は、高分子種、 成膜条件に依存する膜の分子構造の違いに起因する。
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