本研究は、人工的にき裂内流体に刺激を与え、き裂面に能動的に弾性波を誘起せしめて得られる応答を解析して、その結果を、地下き裂評価に結び付けようとするものである。2年継続研究の初年度に当たる平成元年度の研究実績は以下のとうりである。き裂を有する岩体とき裂内流体の連成過渡振動を解析するために、まず、き裂内流体の運動を、流路間隔が圧力及び時間により変化する狭い隙間内の層流流れとして定式化するとともに、ラプラス像空間における弾性体に対する相反定理を利用して、ラプラス像空間における境界要素解析のための基礎方程式を誘導した。この基礎方程式によれば、き裂上下面の突起の接触により生みだされるき裂面剛性、流体の圧縮性、さらには流体の粘性を考慮した岩体の動的応答を解析することができる。つぎに、この基礎方程式に基づき、内部を流体で満たされたき裂を有する岩体の動的過渡応答評価のためシミュレ-ション法を開発した。このシミュレ-ション法によれば、個々の基本振動モ-ドが陽の形で得られるため、き裂の動的過渡応答がどのような振動モ-ドで構成されているかが明瞭になるとともに、各基本振動モ-ドの分散特性、指向性、岩体内部への伝播深度特性に対するき裂面剛性、流体の圧縮性及び粘性の影響を陽に評価することができる。 このシミュレ-ション法の開発と並行してフィ-ルド実験デ-タの解析を行い、き裂内を伝播する弾性波の伝播速度を明らかにした。このデ-タは、東北大学東八幡平実験フィ-ルドの地下人工き裂と2本の坑井からなる地下システムのエアガンによる人工刺激により得たものである。また、き裂先端の刺激により生じる弾性波を解析し、減衰の影響を調べて、三軸ホドグラムによるき裂位置標定における従来のパラドクス、すなわちき裂先端に刺激が加わっているにもかかわらずき裂中央が評定されるというパラドックス、の解明に成功した。
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