本研究は、超精密切削加工における精度限界を決定するひとつの要因と考えられ、工具が工作物表面を安定して削り取り得る限界の厚さである最小切取り厚さについて、その大きさおよびそれを支配する要因を明らかにしようというもので、次に示す研究成果を得ることができた。1.極微小切削実験装置を試作し、その運動精度を詳細に評価した結果、主軸の回転精度、送りテ-ブルの直進精度共に10nm台の運動誤差を持っているものの、その再現性は1nm程度であり、ナノメ-トルレベルの切削実験が可能であることを示した。2.試作した極微小切削実験装置を用いて、銅およびアルミニウムの極微小切削実験を行い、高い運動精度を持つ工作機械と高い切削性能を持つダイヤモンド工具を用いて被削性の良い金属を切削する場合には、1nmの最小切取り厚さでの切削加工が可能であることを示した。3.安定して1nmの最小切取り厚さを実現するには、切刃稜の幾何学的形状などの、工具切刃の微視的構造の安定性が大きな問題となることを示した。4.ナノメ-トルレベルでの切削現象の理解には、従来の連続体力学にもとづく解析は適用できず、原子配列モデルを用いた、計算機シミュレ-ションが極めて有効な手段であることを示した。5.計算機シミュレ-ションによると、工具切刃稜丸味半径が大きくなると最小切取り厚さは大きくなり、最小切取り厚さは切刃稜丸味半径の1/10程度であると考えられる。また、工具・被削材界面の相互作用の最小切取厚さへの影響はそう大きくないと考えられる。
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