本研究は、いわゆるロ-レンツモデルとしてしらさている熱対流方程式が、上下の境界壁面上で渦度ゼロの「すべり」条件しか満たすことができないため数学モデルの意味しかもたないことに着目し、すべりなし条件を加味することによって一歩でも物理モデルに近づけようとした試みである。 ロ-レンツが行ったのと同様の手順で基礎となる方程式(連続の式、渦度方程式およびエネルギ-方程式)の低次元モデル化をはかると、境界面上で渦度がゼロでないため壁面近傍に特異性が現れる。この難点を克服することが本研究の中心課題であり、線形安定理論との整合性に配慮しながら、固有関数の性質を利用して特異性の解消に成功した。 結果として、(i)本モデルはきわめて弱い非線形作用の下で成立する。こと、(ii)ロ-レンツモデル(3元連立常微分方程式)と比べて、2箇所の係数が境界条件のみに依存して固有に決定できることを明らかにし、このモデルの適用限界および問題点を指摘した(飯田)。 また、このモデルの力学系としての基本的な性質を明らかにする試みも幾つか行っており、(i)糸の分岐線図を求めてアトラクタの性質に本質的な相違が現れるかどうか(飯田)、(ii)この熱流体現象をカオス研究の立場からどのように理解すべきであるか、他の簡単な流れとの対比において検討を加えた(小河原)。 これらの結果は2編の論文として日本機械学会へ発表の予定である。 今後は、壁面で任意のせん断応力を付与できるより一般的なモデルを構築すると共に、モデルのカオス的挙動に見られる構造的な境界条件依存性とその原因および、より強い非線形作用への適用性の拡張などを考えて行きたい。
|