血管の幾可学的形状に起因する流れ構造が、動脈硬化の発生と促進に対して重要な役割を担うことに着目し、運動量移動速度(壁面せん断応力)分布を検討した。対象とした流路は、人体の腹部大動脈から下腸間膜への分岐モデルである。本年度は生体の複雑な腹部大動脈モデルを、アクリル樹脂により作製し、各四分円断面上に測定用電極を計300本(白金電極)埋め込んだ。測定では、拡散抵抗支配の酸化還元系の電解液を用い、電気化学的方法により各部位の壁面せん断応力を測定した。 本年度得られた結果を以下に記す。 (1)支管外壁上では、せん断応力は上流より分岐点にかけて減少し、分岐後若干下流で減少値をとり、その後振動しながら下流へと増加する。一般に、2次元モデルによればこの領域で流れがはく離することが知られているが、実際の3次元流路ではこのはく離流れが発生しないことは大きな特徴である。 (2)主管外壁上では、分岐部近傍でせん断応力は小さくなり、分岐後の若干下流ではく離流れが発生する。 (3)分岐部の流れ分割点(Flow Apex)は流れの淀み点となるため、せん断応力は極小値をとる。この点の若干下流でせん断応力は急激に増加し、下流へと振動しながら漸近的に減少していく。 (4)以上の結果より、動脈硬化の発生し易い分岐部支管壁上と流れ分割点でのせん断応力分布はこれまでの2次元モデルでは予測のつかなかったものであり、今後これまでの結果と動脈硬化の発生とを関連づけて、より詳細に検討する。
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