血管の幾何学的形状に起因する流れ構造、とりわけ壁せん断応力が、動脈硬化の発生と促進に対して重要な役割を担うことに着目した。人体の腹部大動脈から下腸間脈への分岐モデルを対象とし、壁面せん断応力(運動量移動速度)分布を検討した。本年度は、昨年度に引続き複雑な腹部大動脈モデルをアクリル樹脂により作製し、埋め込んだ約300本の測定用白金電極を用い、限界電流法により壁面せん断応力を測定した。流れは、レイノルズ数1200以下の層流域流れ、および準定常と考えられる脈動流である。 (1)支管外壁上では、壁せん断応力は上流より分岐点にかけて減少し、分岐直後で極小値、その下流で主管十分上流の値より大きな2つの極大地をとる。その後、壁せん断応力は振動しながら十分下流の漸近する。一般に、この周期的変動は上流の主管外周部の流体が支管へ旋回しながら流入することにより発生する。この流れ構造は、分岐管流れの大きな特徴である。さらに、二次元モデルによればこの領域で流れが剥離することが知られているが、支管外壁曲率半径の大きな腹部大動脈三次元流路ではこの剥離流れが発生しないことは大きな特徴である。 (2)主管外壁上では、分岐部近傍で壁せん断応力は小さくなり、分岐点が負の値となる。このことから、分岐後に剥離流れが発生する。 (3)分岐部の流れ分割点(Flow Apex)は流れの淀み点のため、壁せん断応力は極小値をとる。この点の若干下流の主管・支管内壁上で壁せん断応力は急激に増加し主管十分上流の値の5倍以上の最大値をとる。その後、下流へと急激に減少し、漸近値へ近づく。 (4)脈動流では、支管外壁上のせん断応力の変動は他の部位における変動よりも小さい。今後、脈動流での壁せん断応力と初期動脈硬化との相関づける検討する。
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