これまで筆者が行ってきた超臨界雰囲気下での液体燃料の燃焼に関する理論的研究の知見(特に、液滴の表面の状態が考えている混合系の臨界状態に達した時点において、表面近傍での相互拡散係数の値が零にならなければならないこと)に基づいて、単一燃料液滴の蒸発過程の数値計算を行い、不連続な気液界面が存在する亜臨界蒸発様態から連続的相変化の起きる超臨界蒸発様態への非定常遷移の様子を明らかにした。以下は、得られた主な知見。 液滴寿命の途中において表面の状態が臨界点に達して気液界面が消失した後も、依然として高燃料濃度領域(コア)での濃度変化は微小であり、液体と同様の状態が局所的に保持され続ける。中心から最大濃度勾配を与える変曲点までの距離を表わしたコアの半径は、亜臨界蒸発時の表面の後退速度より速くに縮小し、零に近づくと中心部の濃度は急速に減少して、最終的に至るところ濃度が零になる。すなわち、連続的相変化は狭い領域内で起きるので、粗い光学的観測によった場合には、液滴がそのまま存在しているように見えることになる。従来言われてきたパフの概念は、むしろコアが消失し急速にガス化が進む段階での状態を記述するのにふさわしいものである。以前に筆者が理論的に予測したように、遷移時の液滴表面温度の時間的変化に特異性は現われない。表面温度は液滴中心温度との間にある開きを持って、遷移時にもほぼ前と同じ傾きで上昇し続けようとし、それに伴って瞬間蒸発定数の値も単調に増加し続ける。液滴中心温度はコアが消失する時点で急激に上昇する。このときの温度が蒸発物質の臨界温度に近い値を取ることより、これまでの急激な温度上昇が臨界現象の一つの特徴であるかのように思われてきたきらいがあるが、実際の遷移はそれ以前に起きている。 また、遷移可能な雰囲気温度圧力範囲と遷移時間の圧力依存性を求めた。
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