筆者は以前の研究において、臨界圧を越えた雰囲気下での液体燃料の蒸発過程を記述する基礎理論を構成し、亜→超臨界蒸発遷移が起きるのに必要な条件(混合臨界状態に達した液面で相互拡散係数が消失しなければならない)を明らかにする共に、この遷移条件を満たす合理的な拡散係数の表示式を誘導した。また、遷移時の漸近挙動を解析的に調べて普遍則を導き出すことにより、現行の理論枠内での遷移の特性付けを完了し、遷移前後の過程を繋ぐ数値計算法の開発のみを残していた。 本研究では、これらの成果に基づいて、超臨界雰囲気中に置かれた単一燃料液滴の蒸発燃焼過程の数値計算法の開発を行い、世界ではじめて遷移を含む全過程の数値シミュレ-ションに成功し、液滴寿命の途中で遷移が起きる雰囲気条件など、ロケットモ-タや高速ヂィ-ゼルエンジンの設計に有用なデ-タを提供した。さらに、関連して噴霧燃焼シミュレ-タの開発のための基礎的研究も行った。 本研究で得られた主な知見は次の通りである。 遷移後も高燃料濃度領域(コア)が存在し、そこでは液体と同様の状態が保持される。コア半径は、亜臨界蒸発時の表面後退速度より速やかに減少し、零に近づくと中心部の燃料濃度は急減に縮少し、温度は急激に上昇する。連続的相変化は狭い領域で起きるので、粗い光学的観測によった場合には液滴の存続として映る可能性がある。遷移に際して液滴温度に特異性は現れない。表面温度は中心温度との間に或る開きを持って、遷移の瞬間まで前と同じ傾きで上昇し続け、瞬間蒸発定数も単調に増加し続ける。火炎の存在は遷移の発生を早め、高圧では大部分の燃料が超臨界蒸発様態で燃焼することになる。圧力の増加と共に最大火炎半径は減少する。遷移に伴って火炎温度は急激に上昇し、気化律速から拡散律速の燃焼に移行する。
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