本研究は、核沸騰熱伝達、膜沸騰熱伝達および固液接触確率のそれぞれの定量化により、沸騰曲線の一般的予測法を確立しようとする研究の一環である。本研究では、最も研究の遅れている固液接触確率を取り上げ、確率を決定する基本構造を探ることが目的とされた。このために、二種の実験を行った。第一は、ファイバ-スコ-プによる金属面表面での固液接触過程の動的追跡実験である。観察対象は、沸騰面表面から数10μm以内の相変化現象であるが、ファイバ-スコ-プ観察系の設置により、沸騰現象を拘束せず良質の画像が得られるよう、光学観察系の選定と改良を重ねた。その結果、ボアスコ-プ先端にさらに円錐ガラス部を付加した観察系とファイバ-スコ-プを利用した照明系とを特定角度で交差させた光学系と、高速度撮影系とを組合せた観察システムを構築した。さらに、表面を梨地処理した鏡面仕上げ銅面を沸騰面とすることにより、このシステムで良質の画像が得られることが分かった。当初計画より遅れたが、現在観察実験を遂行中である。一方、光学的透過を有するが石英ガラスなどと異なり熱伝導率が金属程度に高い単結晶サファイアを沸騰面とし、裏面より固液接触過程を追跡する第二の実験では、単結晶サファイア面でのフロンR22の沸騰実験より意外なことが判明した。即ち、単結晶サファイア面では、50Kを越える過熱度においても殆ど核沸騰が現出せず、膜沸騰崩壊温度が金属面でのそれより顕著に高く自発核生温度に近いことである。これは、蒸気膜崩壊条件が沸騰面表面の幾何学的クボミ密度あるいは沸騰核生成密度と強い相関を持つことを示唆する重大な結果である。そこで、幾何学的クボミ密度の大きく異なる他の沸騰面をも用意し、他の液体を含めて沸騰実験を行った。その結果、蒸気膜崩壊条件を含む固液接触過程は、幾何学的微細クボミの数密度と重要な相関があることが見いだされた。
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