研究概要 |
平成3年度の研究実施計画は概ね実行されているが,未知なる分野であるため解明すべき事項が多く出現し,非常に驚嘆すると同時に,興味深い問題であることを痛感している。まず,1.選択的能動輸送機構と濃縮化の解明の事項については,これが生体系熱・物質交換の特微的特性であり,生体膜を介した物質輸送の選択的能動輸送を代謝反応との共役現象としてとらえ,いわゆる「ポンプ」作用の機能と機構の解明が本質的に重要である。また,これによる増培管機能による物質の濃縮化はエントロピ-を増加させない輸送形態とも考えられ,これが熱工学的に興味ある事項で,その工学的応用も広範囲にわたることが期待される。次に,2.感温および感物質のセンシング機能の解明については,文献調査によれば,それ自体が不明の部分が多く,障害部位での温寒感覚や産熱などのセンシング機能の欠損により体温調整機能障害が見られ,人為的な代替物の開発は重要と思われる。また,3.生体組織の熱物性値とその温度依存性の解明に関しては,本研究計画の実施には不可欠な事項であるが,inーvivo状態における物性値測定は極めて少なく,その依存パラメ-タも多く一般的整理法や評価法も確立していない。測定法については医学部との共同研究によりある程度の進展がみられる。とくに,生体膜の測定に関心がある。さらに,4.生体内の温度および物質分布の計測と表示法の確立については,上記1.〜3.の結果に基づいた温度と物質(濃度)分布の三次元計測とその表示法が各種診断にも有用であり,例えば超音波ホログラフィ-や誘起蛍光法によるものを検討している。いずれも非接触でリアルタイムであるが,各組織における信号減衰量の温度・濃度依存性をまず把握し,信号処理のシステムを構築することが重要である。最後に,5.生体系熱・物質交換システムの工学的応用については,まず診断システムと高効率熱・物質交換器の開発を推進していく。
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