金属のふく射現象は、材料の組成や温度のみならず、雰囲気・表面状態にも依存して変化する複雑な過度現象である。本研究では、この点を考えて、材料が高温装置の実環境下で示すふく射性質の諸様相を、分光学的な実験と理論に基づいて系統的に明らかにすることを目的とする。 平成元年度には、まず、高温大気酸化過程における耐熱鋼と鉄基・コバルト基・ニッケル基の超合金の熱ふく射性質の過渡挙動を近紫外〜赤外の波長域で高速スペクトル計測する実験研究を行った。その結果、ふく射の回折と干渉で特徴づけられる規則的なスペクトルの推移が観測され、金属元素についてはすでに明らかになっていた表面の微視構造とスペクトルとのよく再現される関係が、実用の高温用金属材料についても一般に成立することがわかった。 そこで、つぎに、実在表面におけるふく射現象を一般的に記述する電磁波理論の検討を進めた。表面モデルを考えるにあたって、あらい表面は3次元的な階層構造をもつ自己相似的な離散要素の集合であり、被膜はその構造の上に非平行薄膜として形成されるとした(3次元重ね合せ法)、第1段階として、被膜のないあらい表面のモデルを提案して、そのふく射の回折・干渉現象を記述し、とくに表面構造とそこでのふく射の散乱・反射の角度・波長特性の関係に注目した。 この理論・モデルの妥当性を分光実験によって検証するために、表面の微視構造の明確な試料について反射測定を実施し、とくにその波長・角度特性について、理論・数値計算の値と実験値との比較・検討を行った。この実験のために、平成元年度設備備品として、分光器とレ-ザ・コリメ-タを購入し、ふく射の波長と角度の設定、ふく射の平面波束の設定のために用いた。
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