本研究では、無照射及びγ線照射試料の物理化学的特性をX線回折強度、陽電子寿命スペクトル、赤外線吸収スペクトル、電子スピン共鳴吸収スペクトル及び電子顕微鏡写真により調べ、同時に、フイルム状試料(厚さ50μm)及びケ-ブル(厚さ0.5mm)の絶縁破壊特性も調べ、放射線による絶縁劣化について総合的に検討した。試料としてフッ素系樹脂のPFAとFEP、芳香族系樹脂のPEEK、それに熱硬化性樹脂のエポキシ樹脂を用いた。 種々の分析結果から、PFA及びFEPは0.01MGy照射でフリ-ラジカル量が増え、また、分子切断による酸化も起こっていることが明らかになった。PEEKの場合は5MGy照射まで構造の変化がほとんどなかった。次に、破壊試験の結果から、PFAフィルム及びPFAフイルムの絶縁破壊特性は線量とともに低下し、特に0.15MGy照射で著しく変化するが、PEEKフイルムの絶縁破壊特性は5MGy照射まで変化がなかった。一方、エポキシ樹脂の場合2MGy照射で低下する傾向があった。また、PFAミニケ-ブルの絶縁破壊特性は0.2MGy照射で急激に低下するが、FEPミニケ-ブルの場合は0.2MGy照射まで絶縁破壊特性に変化はなかった。PEEKミニケ-ブルの場合は5MGy照射までほとんど変化がなかった。 以上をまとめると、PFAフイルム及びFEPフイルムは0.01MGy照射によって内部構造が変化し、絶縁破壊特性も低下し始めた。PEEKフイルムの場合は、5MGy照射しても内部構造に大きな変化はなく、絶縁破壊性特も低下することはなかった。なお、エポキシ樹脂の絶縁破壊の耐放射線性はPFA、FEPとPEEKの間にあることがわかった。次に、フッ素系樹脂のフイルム状試料とケ-ブルの絶縁破壊特性を比較すると、大きく低下し始める線量はケ-ブルの方が大きく、酸化劣化が試料内部の深いところまで進行していないことが明らかになった。
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