80℃に加熱したガラス基板上にアンチモンSb、マンガンMnをこの順に等原子比で蒸着し200℃で1時間熱処理して、c軸が膜面垂直に配向したマンガンアンチモンMnSb薄膜を作成した。このMnSb膜の上に白金Ptを蒸着し、もう一度熱処理すると、(111)面が優先的に配向した白金マンガンアンチモンPtMnSb薄膜が得られることがわかった。熱処理によりPtMnSbが生成していく過程をX線回折と磁気光学効果(極力-回転角)の測定により調べた。その結果、膜全体がPtMnSbになるのに要する時間は熱処理温度が高く、膜が薄いほど短いことがわかった。例えば、膜厚が1350Åのときには350℃で3時間、450℃で30分の熱処理が必要であるが、730Åと薄い膜では350℃でも1時間弱の熱処理でPtMnSb単相の膜が得られた。また、厚い膜を低温で熱処理するほど(111)配向性が高いことがわかった。PtとMnSbが膜厚方向に一次元的に相互拡散するモデルを用いてPtMnSbの生成過程を解析し、実験結果と比較した。低温の熱処理では膜厚方向の一時的な拡散がかなり優勢であるが、高温では結晶粒界を通じての拡散が支配的になると思われる。ほとんど完全に(111)配向した膜(350℃熱処理、膜厚1350Å)と、これにより配向性が悪い膜(450℃熱処理、膜厚1350Å)の極カ-回転角の波長依存性(カ-スペクトル)を調べた。その結果、膜表面側のカ-スペクトルはほとんど同じで、波長約700nmで最大値約1.5度をとり、(111)配向性とPtMnSb薄膜の磁気光学特性との間にはほとんど関係がないことがわかった。しかし、ガラス側のカ-スペクトルは大きく異なり、350℃で熱処理した膜では680nmで約1度の最大値を取るのに対して、450℃で熱処理した膜では630nmで約1.3度の最大値をとる。これはガラス基板との境界層の微細構造が熱処理温度によって異なることを反映しているものと思われるが、その詳細については今後さらに検討が必要である。
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