サブミクロン程度の幅を有するMOSFETを用いて、常温付近のランダム・テレグラフ雑音を測定した。この測定には微小電流計(pAメ-タDC電源)を使い、HP-IBバスを通して測定デ-タをコンピュ-タに転送し解析を行った。測定電流値のオン・オフ判定はソフトを用いて行ったので大幅な省力・自動化が計れ、実質的には数千個にも及ぶデ-タを統計的に処理して酸化膜トラップへの捕獲時間と放出時間の平均値を求めた。この捕獲・放出時間は充電・放電時にトラップ周辺の格子を歪ませるのに要する弾性エネルギ-障壁を使って記述できる。典型的な障壁エネルギ-の大きさは数百meVであり、測定温度を20K程度変化させると捕獲・放出時間が10倍以上変化するので測定時の温度を一定に保つことが肝要である。 捕獲前後の電子波動関数の重なりの計算を参考にしてトラップ準位の酸化膜中での位置を求めると、酸化膜界面から1〜2nm離れていることが分かった。MOSFETのテレグラフ雑音の大きさは、電子を捕獲したトラップ近傍に生じるク-ロンポテンシャルの山によって電子の走行が阻害されるためである。このク-ロンポテンシャルの影響が及ぶ範囲は概ね数百Åの狭い領域に限定されているため、本研究課題を実施するにはチャネル幅が0.1μm以下の狭チャネルMOSFETを用いることが前提となる。また、スクリ-ニング(遮断効果)によってク-ロンポテンシャルの影響範囲が狭くなる強反転領域ではテレグラフ雑音は相対的に小さくなる。電子捕獲によってドレイン電流が変化する量は上に述べたようにク-ロンポテンシャルの山を乗り越えられない電子の数に比例するので、低温において顕著に観察される。なお、トラップ占有率に関してはフェルミ・ディラック統計で説明できることが分かった。
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