固体内原子衝突あるいは荷電粒子と固体との相互作用をシミュレ-トするコ-ドは多くの研究者により開発され、多大の成果を得ている。しかしながら、クラスタ-イオンと固体との相互作用をシミュレイトできるコ-ドは、現在、分子動力学的手法と著者の開発したDYACATコ-ドのみである。クラスタ-イオン照射を分子動力学的手法で計算しようとすると膨大な計算時間を要し、現在、原子あたり数にeV以上になるとクラスタ-サイズはせいぜい数十個のオ-ダ-である。しかしながらこの科研責補助により、著者によって開発されたDYACATコ-ドは千個のオ-ダ-のクラスタ-サイズでも計算可能である。このコ-ドの開発により種々の成果をおさめた。 クラスタ-イオンの照射を単原子イオン照射との根本的な相異点クラスタ-を構成する原子同志の衝突や下部の原子と標的原子との衝突に起因する相乗効果である。計算の結果、低エネルギ-(原子あたり数eV)の場合は多体効果のため、表面近傍に密度の濃い層が形成され加速電圧が効率よく表面移動エネルギ-に変換される事が判った。一方、高エネルギ-(原子あたり数百eV以上)の場合には、露払い効果と加速効果という2つの重要な効果がある事が判明した。露払い効果は、クラスタ-を構成する原子の質量(M_1)が標的原子の質量(M_2)より大きい場合に顕著で、加速効果はその逆の場合に重要となる。加速効果を検証するため、1keV/原子の(Al)500を金のタ-ゲットに照射した計算を行った結果、0.1psec後には、2〜3keV5エネルギ-をもつAl原子が存在し、巾の広いエネルギ-分布を持つ事が判明した。この事は、クラスタ-衝撃核融合に関する重要な知見を得たとして評価できる。
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