人工知能の研究成果を教育における計算機援用教授システムの開発に積極的に活用する知的CAIの研究では、学習者に主導権を与えて計算機に知識状態を伝達させ、これを解析して理解レベルに合った教育指導を行なう機能が実現できなければならない。学習者のこのようなメンタルな状態を人工知能の方法で表現できるためには、自然言語理解、知識表現及び推論機能を学習者とシステムとの自然な双方向対話、学習者モデル、教授方略に適用し、適応型教育システムの構成法の理論的解明並びにモデル・システムの作成によってその実現性を究明しなければならない。本研究ではこのような知的なシステムの構成を可能にする方式を明確にするために、 (1)構文解析と格文法解析によって入力文を解析し、これをフレ-ムによる内部表現に変換する自然言語理解の方式を考案した。学習者が電気回路の解析で用いる典型的な表現を調査し、文法、単語辞書、文脈の解析機能を組み込んだ自然言語インタフェ-スを構築した。 (2)内部表現を意味解析し、システムの専門知識を適用して学習者が用いた知識を再構成する。これを学習者モデルとし、これを診断して適切な助言と指導を行なう直接的教授方略を考案した。 (3)学習者の記述理解に必要な、対話のモデルとして問題解決手法をスクリプトで表現した。解答診断及び学習者の理解レベルをスクリプトのモニタ-によって判定し、適切な助言機能を構成した。この機能により、教授方略、学習者モデル、助言方法、出題方法の相互関係を明白にすることができた。 これらの機能をもった電気回路に関するシステムを実際に構成し、60名を対象にシステム評価を行なった結果、システムからの応答文を解釈できる程度に教授内容を理解した学習者には有効であることが判明した。しかし、理解状態を文章で適切に表現できない初心者や、システムにない専門知識を適用できる上級者には、自然言語インタフェ-スに問題が生じることも判明し、これらに関する研究の必要性が新たに発生した。
|