研究概要 |
ビル内情報機器端末を無線ネットワ-クにより接続する構内無線通信は経済性と機動性に優れているが,多重伝搬波の干渉のため安定性と信頼性に課題がある.本研究は電波の脆弱性克服技術を開発し,屋内において高安定な無線通信方式を実現することを目的とする.本年度の主な研究課題は前年度に引き続き,“室内における多重波伝搬構造の把握",即ち到来電波の数と到来方向及び遅延時間を推定することであるが,特に本年度は,同一測定系から多重波の到来方向と遅延時間を同時に推定する方法を提案した.これにより到来方向と遅延時間との間の対応付けができ,伝搬経路が一層明確となる.推定手法としては,(1)被測定領域が狭くても高分解能が得られ,(2)測定装置が簡易でよく,(3)雑音の存在する環境においても推定可能,という特長を有するMUSIC法を用いた.推定手順は以下のとおりである.まず,ある周波数で小形アンテナの回転走査によって得られたデ-タに対してMUSIC法を適用し到来波数と到来方向を推定する.この回転走査を周波数を少し変えてもう一度行い,これによって得られたデ-タと先のデ-タとの相互相関からそれぞれの波の伝搬遅延時間を推定する.計算機シミュレ-ションと電波暗室内の実験により,本推定法はアンテナの回転半径1波長,使用周波数1.28,1.32GHzでS/N比が20dB以上あれば,到来方向に関しては10〜20度,遅延時間に関しては3〜5nsの分解能を有することがわかった.さらに,6.32×4.32m^2の面積の室内においてアンテナ回転半径1波長,周波数1.29,1.31GHzで実験を行った.その結果,直接波に対してー20dB以上の波の数は5〜10,それらの到来方向は水平面内でほぼ一様に分布しており,直接波に対する遅延時間差は50ns以下であった.これより室内においてはかなり複雑な電波伝搬環境であることがわかる.このような電波環境下でのデ-タ通信にとって,一昨年から研究を行っているダイバ-シチ受信方式が安定性と信頼性の点で不可欠であるとはいえ,到来方向分布が水平面内でほぼ一様であることから指向性ダイバ-シチが有力である.
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