本研究は工業炉とか製鉄プロセスなどの温度制御を行うための基礎的研究として分布定数系の適応ディジタル制御方式を開発し、さらに本研究で開発された適応制御則に基づいた加熱炉の適応温度制御をマイクロコンピュ-タによってオンラインで実行するものである。本年度は、加熱炉の温度分布を支配する偏微分方程式に含まれる未知パラメ-タを推定するアルゴリズムの開発を行った。本アルゴリズムの特徴は拡散方程式の解として与えられる空間的に分布した状態を有限個の空間上の点で観測した点観測の場合に対する同定アルゴリズムを開発したことである。さらに、パラメ-タ同定問題に於て生じてくる。(1)-posedness問題を回避するために正則化手法を用いることを提案し、パラメ-タ推定の精度の向上を図っている。ディジタルコンピュ-タによる適応制御を行うために、偏微分方程式で記述された分布定数系を時間的に離散化することが必要であるが、その際のサンプリング間隔の決定法についても考察し、最小位相系となる条件の導出を行っている。また、離散時間分布定数系として記述されたシステムに対して、入出力デ-タから未知パラメ-タを同定し、分布定数系の出力が予め与えられた目標値への追従するための制御則を適応的に構成する適応制御アルゴリズムの導出を行い、シミュレ-ションによる本手法の有効性を定量的に検証している。さらに、観測位置の変動が未知パラメ-タの推定精度に及ぼす影響について考察し、観測位置とパラメ-タ同定の感度解析を行い、観測デ-タによって得られるパラメ-タ推定に関する情報を情報量測定を用いて定量化し、そこで与えられた情報量測度を最大とする最適観測位置の決定法を示している。したがって、本年度の研究によって、偏微分方程式で記述された分布定数系の未知パラメ-タを決定し、目標値へ追従する適応制御系の設計の指針が略与えられたものと思われる。
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