水中翼は船舶や水中ロボットの運動制御の目的のために頻繁に用いられる構成要素のひとつであり、その流力特性を精度良く推定することは重要である。今年度の研究では曳航体の深度制御で多用されている低アスペクト比翼の流力特性を明らかにする目的で、アスペクト比が1と2の矩形翼と、2と4の三角翼に対して(1)定常流中の定常揚力、(2)上下揺時の非定常揚力、および(3)定常迎角がある場合の前後揺時の非定常揚力などを理論的・実験的に研究した。理論計算は3次元揚力面理論によるポテンシャル計算で、ダブレット分布によって任意形状の翼に適用できるものを新たに開発した。実験では3次元翼の形状やアスペクト比の違いによる揚力の変化を明確にするために、今回は没水深度を大きくし、自由表面の影響を除いて簡単化した。これらの計算と実験結果の比較によって、定常揚力についてはアスペクト比が1の矩形翼では翼端からの渦放出によって大迎角でも失速が遅れ、揚力が増加するなどの非線形影響が好ましい方に働くこと、三角翼は矩形翼に比べて失速角が大きいので揚力については好ましいことなどがわかった。次いで、非定常揚力については付加質量係数と減衰力係数に位相分離して比較したが、一般的には理論と実験の一致は良好であることがわかった。しかし、無次元周波数が小さな所で付加質量係数が一様流速の影響によって変化することや逆に高周波数域では減衰力に粘性抗力と思われる非線形影響が生じることなどの問題点も明らかになった。これらについては、没水深度が小さな場合に生じる自由表面影響の問題とともに来年度の研究で考察したいと考えている。
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