今日、都市交通施設の整備財源を確保する上では、利用者のみならず土地所有者を中心とした幅広い受益者による負担が求められている。本研究は、都市鉄道整備に伴う受益者がそれぞれどの程度費用を負担すべきかを検討するうえで、まず必要となる受益量の特定方法の開発を行ったものである。既存の方法は、交通改善による便益発生から帰着に至るメカニズムを明確に捉えてはいないことから、発生した便益がすべて沿線の土地へと帰着する等の仮定を置いており、そうした非現実的な仮定は既存方法の適用を著しく限定している。 これに対し、本研究は、複雑な便益の帰着過程を、空間・主体相互の連関に基づく波及び現象と交通改善地域への立地需要の増大に伴う土地資産価値への転移現象に分離できることを示し、それぞれの現象のモデル化を通じて便益(開発利益)の帰着に関する計測モデルを構築している。このモデルにおいては、1)交通利用者の立地選好を表わす立地余剰概念を立地・地価の同時均衡理論へ適用することにより、整備によってもたらされる利用者便益を当該地域での土地資産価値への転移分と施設利用者への残存分に分離することを可能としている。また、2)立地変化予測を組み込んでいることから、発生した便益が交通施設周辺の限られた地域に帰着するか、あるいは広い地域にわたってスピルオ-バ-するかについても表現する機能を有している。なお、本モデルを名古屋都市圏における鉄道整備へと適用することにより、実際問題への応用可能性に関する検証を行った。その結果、本モデルは、既存ネットワ-クとの接続条件および運行条件等の違いに応じた便益帰着の違い、鉄道、道路という交通施設の性格の違いによる便益帰着の違いについても考慮しうることが明らかにされ、開発利益還元の検討を行う上で、貴重な情報を与える一つの代替的な方法となりうることが示された。
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