本研究の目的は、鋼構造物の中でも最も重要な構造要素である柱材を例にとって、構造研究者や構造技術者の間で共有されるべき構造実験情報に対して、これを適切に保存・抽出・参照する手順を導くことである。初年度では、構造実験情報として必要な項目と、その分類法を検討した。本研究の最終年度である本年度の成果は以下の通りである。1.柱の耐力に関する情報を過去の実験結果から抽出し、これを関係デ-タベ-スとして保存した。2.柱の変形能力に関する情報を、塑性率という指標を用いて過去の実験から抽出し、これを関係デ-タベ-スとして保存した。3.構造実験情報を適切に保存・抽出することによって可能になる新しい展開の一例として、上記のデ-タベ-スを用い、現行の設計規定の精度を検討した。この結果得られた情報によって、信頼性設計において必要となる柱の耐力や変形能力のばらつきの程度を定量化できることを示した。4.柱の耐力と変形能力に関する感度解析を実施し、材料特性や残留応力などの諸因子が、柱の耐力と変形能力に及ぼす影響の程度を定量化した。またこの結果を、プロダクションル-ルを用いて知識ベ-スとして記述した。5.上記の知識ベ-スと構造実験情報を保存したデ-タベ-スを組み合わせることによって、いろいろな因子が複雑に相関しあって表現されている構造実験情報を効率よく解釈する上で、知識ベ-スが有益な手段となりうることを立証した。具体例として、柱材の耐力と変形能力を左右する諸因子の影響度を簡潔に定量化し、設計規定の精度の向上を図る上で考慮すべき項目の優先順位を同定した。
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