本研究の成果は、第1部の人体近傍のゆとり寸法に関する検討の前編と、第2部の身体周囲のアキ寸法に関する実験的検討の後編に分かれている。まず、第1部は、次に示す5つの内容で構成されている。(1)これまでの研究の流れ〜我が国で建築分野から人体計測を手がけた初期のものとして、昭和10年代に発表された藤井・横山らの研究がある。その後昭和30年代以降、吉武、小原らを中心とした人体寸法に関する様々な研究報告が続く。他方、欧米ではDreytussやPaneroらの実践的な人体計測の研究がみられる。(2)室内設計における「ゆとり」語の概念〜広挟感を表す言葉の整理から200語を抽出し、その中からさらに14語を再抽出して広挟感との対応のイメ-ジ調査を行い、その結果を指標化した。(3)人体の揺れ〜人体は、生体である限り意識または無意識のうちにのうちに揺れ動いている。この人体の揺れ幅についての17の基本姿勢を対象に、写真計測を行った。(4)着衣の違いによる人体の増加寸法〜健常成人男女を対象に、夏冬服など服種の違いによって、人体の横幅、前後厚が増加する寸法を実験的に採寸し、整理した。(5)動作時に必要なアキの寸法〜アキ寸法を特定するための事例として、壁面に向って上肢を上下、左右に振る場合にヒトとモノとの間に生じるアキ寸法を採寸した。条件によって壁にぶつからないように回避動作をする「逃げ寸法などについても検討した。次に、第2部は、以下に示す2つの実験で構成されている。(1)超音波行動記録装置によるアキ寸法の計測〜本科学研究費補助金で導入した「移動位置検出システム装置」を活用して、歩行時の身体周囲のアキ寸法を計測した。(2)歩行足跡からの身体周囲のアキ寸法の計測〜前者と同一条件のもとに、歩行によって床面に残った足跡からアキ寸法を直接実測して整理した。特に、前者の装置の導入によって、従来、数値でしか表現できなかった動作時のアキ寸法を視覚的にとらえることが可能になった。
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