ペンデンティヴの発生と系譜のうち、今年度は発生および初期形態の研究を行った。古代ロ-マ時代の帆形ヴォ-ルトに関する資料、文献等は当初の予想よりきめて少なく、文献研究はかなり困難であった。さまざまな発掘調査報告を比較検討した結果、現在のところ、ペンデンティヴ・ド-ムとして最も早い作例は、古代ロ-マのド-ム構法の影響を受けて前2世紀に東部パレスティナに建てられたクスル・エン・ヌエイジシュのド-ムではないかとの結論を得ている。これは、ペンデンティヴと帆形ヴォ-ルトの中間形態ともいえる特性を示す構造物で、ペンデンティヴがド-ムと半円ヴォ-ルトの交差によって生じる過程を示す重要な例であると考えられる。一方、この東部パレスティナの例よりもさらにペンデンティヴとしての独立性が高い建築はコンスタンティノポリスのハギア・ソフィア大聖堂である。しかし、地震によって崩落した第一次ド-ムの形状についてはいくつかの説があり、帆形ヴォ-ルトであるか、あるいはより純正なペンデンティヴ・ド-ムであるかをにわかに断定することはできない。年度後半はこのハギア・ソフィア聖堂第一次ド-ムについて文献研究を行った。結論としては、第一次ド-ムは一応ペンデンティヴ・ド-ムであるが、ペンデンティヴとド-ム本体の曲率は同じで、帆形ヴォ-ルト(ないし帆形ド-ム)にきわめて近い。しかし、ド-ムの偏平な球面は明らかにその下方のペンデンティヴ・ゾ-ンからは独立しており、特にド-ム基部の窓列とコ-ニスはド-ムとペンデンティヴを画する明瞭な建築要素となっている。しかし、これまで提案されてきた第一次ド-ムの復元案は、この窓列の位置で不自然であり、なお再考を要する。確立された建築形式としてのペンデンティヴは、ハギア・ソフィア大聖堂の第一次と第二次ド-ムの建設過程で成立したというのが、現在までの研究の結論である。
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