本研究では、明治時代最高の記念建造物となった赤坂離宮(旧東宮御所・現迎賓館・明治41年竣工)建築工事のうち、とくに内・外装をとりあげ、その使用材料および加工・施工技法について、主として、宮内庁所蔵の造営工亊録の仕様書にもとづいて、実証的に調査・研究した。その結果、赤坂離宮の内・外装技法の実態をはじめて具体的に明らかにすることができた。 外装では、外壁石張り・屋根銅板葺・雨樋・屋根飾り・建具等について調査した。このうち、外壁石張りについては、鉄骨補強煉瓦造の石張り工法を詳細に知ることができ、厚手石材や石灰モルタルの使用に旧態をとどめる反面、加工・施工機械の導入、テラコッタの採用等に新しい試みがなされていることが判明した。各種屋根飾りは、わが国に先例のないもので、その施工法にも独自の工夫が凝らされている。 内装では、床・壁・天井別に、下地および各種仕上げについて調査した。このうち、木造造作の仕様が最も詳しく、過去における洋風建築での実績が反映されている。床寄木張り・絨緞敷・壁布張り・窓緞帳・金箔押し・七宝焼などの室内装飾は、わが国で最も卓越し変化に富むものであった。これらの技法は、造営にあたって新たに導入された技術と、過去の洋風建築で培われてきた技術・技能が結集されたものとみなすことができる。 赤坂離宮造営における仕様(加工・施工技法)は、その後、大正・昭和戦前期の鉄骨造・鉄筋コンクリ-ト造建築の普及に伴って、標準化の方向をたどり定着してゆくが、造営工亊にたずさわった技術者や職人によって、一般建築界に伝播していったと考えられる。赤坂離宮は、明治洋風建築技術の総決算であると同時に、大正・昭和戦前建築への影響からみて、近代建築技術成立上重要な位置を占めるものとして把えた。
|