1.中村達太郎の「日本建築辞彙」に収録されている建築用語のうち、古代・中世に溯るものが数多く見出される。また近世大工技術書に則って語の意義を探り著者独自の解釈を施した例も認められる。本年度は収録語の約3分の1について、古辞書、大工書を参照しつつ、文献的に出典を確認することができた。 2.著者が建築職人から直接聴取したと考えられる語については、東京・京都・神戸に在住する職人たちの協力を得て、一部の語の意義と変遷について確認した。ただし、職人用語の多くは時代とともに変化が甚だしく、ほとんど死語と化している例も少なくない。これらの語については今後どのようにして追及していくかが課題として残る。 3.本研究は最終的に「中村達太郎著・日本建築辞彙」の改訂版ないし注釈版として出版される予定であるが、出版に当たっての形式として、本文は本書初版ならびに増補改訂版両者の内容をそのまま復刻することを原則とし、これに頭注を付けて、今回の研究によって得られた知見のすべてをその注に盛りこむこととした。この形式の決定によって、当初予定していた語の検討の必要が大幅に拡大され、ほとんどすべての収録語について何らかの検討を施す方針に改めた。またそれに伴って、初版・増補改訂版の内容は、現代表記に変更して筆写することとしたが、この作業はその約半分を完了した。 4.次年度の作業として、本年度の仕事の継続のほか、収録されている挿図の検討と書き直し、英・仏・独語約の検討がある。前者については大工書収載の図のほか現存する建築図面から新たに作成することが必要であり、後者については外来の西洋建築用語の訳の成立過程について研究することが課題となる。
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