平成元年度の研究は主として塩化パラジウム酸水溶液の水素還元について行われた。実験はガラス製反応管中の所定濃度(通常0.05mollPd/l)の塩化パラジウム酸水溶液150ml中に水素ガスを200ml/minで吹込んで行われた。実験後、生成した金属Pd粉をろ過分離し、ろ液のICP分光分析で還元率を求めると共に、Pd粉末の形状をSEMで観察した。 還元率の時間変化により還元曲線を求め、20〜80℃における還元温度の影響を調べたところ、温度上昇と共に反応速度が増加するだけでなく、低温では反応初期に誘導期が現れて反応曲線はシグモイド型になることがわかった。このような誘導期がてあらわれる挙動は、高温側であってもPd濃度を高めると(例えば80℃でも0.1mol Pd/l)顕著に認められた。また、水素分圧を低くした場合にも誘導期は現れる。これ等誘導期が無視し得る程度の反応曲線は、Pd濃度に一次の依存性を有する反応速度式から得られる反応曲線にほぼ一致した。一方、誘導期が明らかに存在する反応曲線に関しては、反応初期の誘導期を除いた後半部の反応挙動を考える限りにおいて、Pd濃度に一次依存するように見ることが出来る。 誘導期があらわれる20℃にといて、50%還元に相当するPd粉末をシ-ドとして添加した実験を行ったところ、誘導期は消失した。従って、この誘導期はPdの核発生に係わる現象であると考えられる。 生成Pd粉のSEM観察によれば、還元進行と共にPd粒子は大きくなる傾向を示しているが、その粒径は0.5μm以下であり、非常に細かい。また、その粒子は還元初期にあってもかなり凝集しており、更に還元率が高まる程その凝集が激しくなる傾向を示した。
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