鉄スクラップの蓄積が進む今日において、スクラップ中のCu、Sn、Sbなどのトランプエレメントと呼ばれる不純物の除去は工業的に重要である。これら不純物は、現在の主流である酸化精錬法では除去困難であり、新しい除去技術の開発が必要である。本研究では、硫化物フラックス処理法による溶鉄から脱Cuを中心にトランプエレメント除去の可能性を熱力学的に検討した。本研究内容は、次の4つの部分よりなる。 1)FeーSーC基本3元系融体の相平衡を実測し、本融体の熱力学的性質を定量的に評価した。2)熱力学的考察の際に基礎となる、炭素飽和溶鉄中のCu、Su、Sbの活量を、化学平衡法によって実測した。3)FeSーNa_2Sフラックスと炭素飽和溶鉄間のCu、Sn、Sb等の不純物、Ni、Cr、Mn、Mo等の有価元素の分配を1673Kで測定した。FeSへのNa_2Sの添加は、Cu分配比、Lcu、を増加させ、Lcuは9から最大24まで向上した。同時にNa_2Sは、溶鉄中の硫黄濃度を著しく低下させる。脱Cu生成物であるフラックス中のCu_2Sの活量系数を求め、熱力学的に考察した結果、Na_2Sはγ cusを低下させ、そのために硫黄活量の低下にもかかわらずLcuが向上されることが明らかになった。なお、Sn、Sb、Ni、Cr、Mo分配化は小さいが、Mn分配比は400以上と非常に大きいことがわかった。4)Lcuに及ぼすFeS中への種々の硫化物添加の影響を測定した。Na_2Sと同様に、Li_2S、K_2S、SrS、BaSの添加は、Lcuの向上と同時に溶鉄中の硫黄濃度の低下に有効である。各系で得られるLcuの最大値は20から30の範囲であった。 本研究結果を総括し、硫化物フラックスによる溶鉄からの脱Cu限界について熱力学的に検討した結果、本法による溶鉄からの脱Cuは何能であるという結論を得た。しかし、本法によって得られる脱Cu効率は工業的には十分ではない。従って、今後もより効率的な脱Cu法の開発研究を継続する必要がある。
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