昨年度では、本研究の主目的である硫化物フラックスによる溶鉄からの脱Cuについての実験を予定通り終了した。最年度である平成2年度では、Cuと同様の有害元本であるSn、Sb及び有価元素であるNi、Cr、Mn、MoのFesーNa_2Sフラックスー炭素飽和溶鉄間における分配挙動を調べた。また、熱力学的考察の際に基礎となる、炭素飽溶鉄中のSn、Sbの活量を実測した。平成2年度の研究結果を要約すると以下のようである。1)FeSーNa_2Sフラックスと炭素飽和溶鉄間のSn、Sb、Ni、Cb、Ni、Mn及びMoの平衡分配比を1673Kで測定した。FeSー溶鉄間のSn、Sbの分配比はそれぞれ1.2、1.6であり、FeS へのNa_2Sの添加によってこれらの分配比は低下した。すなわち、硫化物フラックス処理法による溶鉄の脱Sn、脱Sbは期待できないことが明らかになった。また、Ni、Cr、Moの分配比はいずれも小さく、本法によるこれら合金素のロスは問題にならない。これに対してMn分配は400以上と非常に大きく、溶鉄からのMnロスは避けられないことがわかった、2)炭素飽和溶融FeーS合金中のSn及びSbの活量を用いた分配平衡法によって実測し、これらの活量係数を溶鉄組成と温度の関数として表わした、得られた知見を用いて、先に測定したフラックスー溶鉄間のSn、Sbの分配挙動を熱力学的に考察した。また、Snの活量値より溶鉄の平衡SnS分圧を計算し、溶鉄中のSnをSnSガスの形で揮発除去できる可能性が高いことを定量的に示した。 本研究結果を総括し、硫化反応による溶鉄からのトランプエレメント除去の可能性について熱力学的に検討した。その結果、硫化物フラックスによる溶鉄の脱Cu可能であるとの結論を得たが、その脱銅効率は実用上十分高いとは言えない。また、SnはSnSとした工業的に除去できる可能性があるが、本法による脱Sbは困難である。従って、今後もより効率的なこれら不純物除去法の開発研究を継続していくことが必要である。
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