共有結合性の強いセラミックスは、イオン注入により容易に非晶質に変化することが知られている。その典型として、α-Al_2O_3では、非晶質の他に、多形としてγ-Al_2O_3の相が存在するが、それらの構造の相互関係、熱的安定性などについてはまだ不明の点が多い。そこで、イオン注入によりセラミックスの表層に形成された。非晶質が、電子線照射中に容易にγ相に結晶化する過程を詳細に検討した。 α-Al_2O_3単結晶(c面方位)を室温から-100℃で、200KeVAr^+で5×10^<17>Ar^+/cm^2までイオン注入した後、1MV超高圧電子顕微鏡及び200kV顕微鏡で観察を行った。特に、加速電圧は1000kVから75kVまで変化した。 (1)室温で5×10^<16>までのイオン注入により、約1000A深さまでの表面層は非晶質化した。 (2)非晶質相に電子線照射を行うと、極めて短時間に多結晶のγAl_2O_3が形成される。この際、非晶質の単相領域にはランダム方位のγ相が現れ、非晶質にα相が残存する領域では、(111)γ〓(0001)αの方位関係を持つエピタキシャル成長となった。 (3)電子線加速電圧を75kV〜1000kVまで変えた場合、γ相の現れる照射量は、200〜300kVで最小となるが、明確な"しきいエネルギ-"を持たない"no threshold"過程である。これはこの結晶化過程が単純な"はじきだし損傷"に基づくものではないことをしめしている。 (4)電子線照射温度の上昇とともに、この結晶化は起こりづらくなる。従って、これは電子線の加熱効果によるものではない。ちなみに、γ相を形成するには800℃が必要である。 (5)注入量が多くなり、明確なArバブルが形成されると、γ相は形成しづらくなる。従って注入されたArも、この結晶化に影響していると推察される。 これらの結果から、イオン注入により形成されたAl_2O_3の非晶質の構造は、短範囲でγ相に類似した構造であり、後の電顕観察中の電子線照射によって容易にγ相に変化し得ると推察される。また、注入によるArが強制固溶しているため、内部歪も大きいと推察された。
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