近年、新しい高温用材料として、金属間化合物への期待が高まっている。しかしながらセラミックスと同様、延性に乏しい点が、実用上の大きな障害となっている。このため、その延性改善が強く望まれている。 本研究では、金属間化合物の電子構造と機械的性質の関係を主に調べた。一見、無関係に思えるこれらは、電子間の結合という点でつながっている。例えば、せん断変形を考えると、変形により元の原子間の結合は切れ、新しい結合が生まれる。このときの変形の抵抗がいわゆるパイエルス応力である。 平成元年度は、これまでもっぱら転位論で取り扱われてきた機械的性質に、電子論の新しい見方を導入するための基礎研究を行った。具体的には、最近盛んに研究されている金属間化合物TiALの電子構造を、分子軌道計算法(DVーXαークラスタ-法)を用いて計算した。そして、方向性のあるAl ρーTid電子間の結合が大きく、これがパイエルス応力を高めていることを指摘した。その結果、TiAlはすべり変形が難しく、脆性的な破壊に至るのかもしれない。第3元素添加による延性改善の方法として、このAl ρーTid結合を弱めることが第一であり、そのためには、Al原子を遷移金属(V、Mnなど)で置換することが良いことを、初めて計算により明らかにした。 この他、将来の超高温耐熱材料として考えられているNb_3AlとMoSi_2の電子構造の計算を完了させた。特に、Nb_3Alについては、その中の合金元素の電子状態を系統的に計算し、合金効果を見積もることができた。 これら成果を基にして、平成2年度は、金属間化合物の変形過程の電子構造を計算するとともに、延性改善のための材料設計に積極的に取り組む予定である。
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