近年、超高温用材料として、金属間化合物への期待が高まっている。しかしながら、その常温での低延性は、実用上の大きな障害となっており、その改善が強く望まれている。材料の機械的性質は、これまでは転位論を用いて検討されてきたが、本研究では電子論の立場から、金属間化合物の機械的性質を見直した。 本年度は、代表的な金属間化合物であるTiAlについて、その変形過程の電子状態を分子軌道法(DVーXαクラスタ-法)を用いて計算し、以下の結果を得た。 1.変形過程では原子が互いに変位するため、原子間の結合が消滅したり、生成したりする。TiAlのTiサイトとAlサイトでは、変形中に結合の仕方が大きく変化する。このようなサイト依存性は、原子が規則的に並んだ金属間化合物の特徴の一つであり、合金とは異なる点である。 2.(111)すべり面上で、すべり方向を[110]、[101]、[211]と変えて計算した。すべり面下の原子間の結合力は、変形途中で低下した。化学量論組成のTiAlでは、その低下の割合が小さな[110]の普通転位の方向が、最も変形しやすい方向であることがわかった。一方、逆位相境界や、複雑な積層欠陥が生じる方向への変形は難しかった。 3.Tiリッチな組成のTiAlでは、Ti3dーTi3d結合の大きさが[110]方向の変形途中で増加した。このことが、この組成では変形が比較的容易になる原因であると思われる。一方、Alリッチな組成のTiAlでは、Al3pーTi3d結合が、[101]方向の変形途中で増加した。このため、この組成では[101]超転位が活性化すると思われる。 4.双晶変形についても、その電子状態の変化を調べた。Al原子をCr又はMn原子で置換すると、双晶原子面間の結合が弱まる。その結果、双晶変形が助長され、延性が改善される。
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