Fe基非晶質合金の水素脆化感受性におよぼすB、Pの影響を抗折破断試験ならびに脆化に必要な水素吸収量の測定からしらべるとともに、メスバウア-効果の測定により水素吸収による非晶質構造の変化を検討した。 1.Fe_<78>(B_1-xPx)_<15>Si_7非晶質合金(x=0〜1.0)の室温での水素脆化に必要な水素吸収量はP含有率(x)の増加とともに大幅に増加する。すなわち、Fe_<78>B_<15>Si_7合金では約0.6at%の水素の吸収により脆化するが、Fe_<78>P_<15>Si_7合金では、約3.3at%となる。このような脆化は、それぞれの合金の延性-脆性遷移温度(DBTT)が水素吸収によって上昇し、これが室温に達すると生ずる。しかしながら、P含有率(x)の増加とともに水素吸収によるDBTTの上昇速度は大幅に小さくなる。 2.メスバウア-効果の測定から、水素脆化したFe_<78>B_<15>Si_7合金では水素吸収により負のアイソマ-シフト(I.S.)を示し、Fe_<78>P_<15>Si_7合金では正のアイソマ-シフトを示した。このことから、非晶質合金中のB-H結合はP-は結合にくらべて生じやすく、Fe-B-Si系合金中の水素はB原子の周りに局在して存在していることが推定された。また、Fe_<78>B_<15>Si_7合金の水素脱ガス時の吸熱反応は鋭い吸熱ピ-クとして観察され、水素はBと水素化物に近い状態で結合していると考えられた。 3.Fe基非晶質合金の水素脆化挙動はNb、V、Ta等の水素化物の析出に起因する脆化機構に類似していると考えられる。また、非晶質合金中の水素が固溶状態で存在する時には脆化は生ぜず、水素が水素化物に近い結合状態に変化する温度でDBTTが観察されると推定された。したがって、Fe-B-Si系合金とFe-P-Si系合金における水素脆化感受性の大きな差は、BとPの水素化物の析出温度の違いに由来するものといえる。 4.MA法による非晶質粉末の作製、固化については予備実験中である。
|