研究概要 |
本年度は,Ni基合金の多層盛溶接金属に発生するミクロ割れに及ぼすP,S,Siなどの不純物元素の影響を系統的に明確にするため,Ni基合金の溶接材料としてよく用いられているNiーCrーFe系の合金に関して,Cr及びFeの比率を変化させた70%NiーCrーFe三元系合金にP,Si,Sを添加した材料の再熱溶接金属の高温割れ感受性の検討を行なった。 得られた主な結果を以下に要約する. (1)Niー30%Fe,Niー5%Crー25%Fe,Niー10%Crー20%Fe及びNiー20%Crー20%Fe三元系合金の再熱溶接金属部の液化割れ感受性は,P,Si,Sの増加に伴い増大した.一方,延性低下割れ感受性は,P,Siの影響は明確でないが,Sの増加とともに増大した. (2)Niー30%Fe,Niー5%Crー25%Fe,Niー10%Crー20%Fe及びNiー20%Crー10%Fe三元系合金の再熱溶接金属部の液化割れ感受性は,Cr量に影響されないが,0.007%Sを含む各合金の延性低下割れ感受性は,Niー10%Crー20%Feが最も低く,Niー30%Fe及びNiー20%Crー10%Fe合金で高くなった. (3)再熱溶接金属部で発生した高温割れは,オ-ステナイト粒界で発生していた.また,オ-ステナイト粒界はデンドライト境界と約10%しか一致しておらず,割れ発生には,デンドライト境界はほとんど無関係と考えられた. (4)70%NiーCrーFeー0.007%S合金の再熱溶接金属部の延性低下割れは,1173ー1273K付近の高温延性の低下により発生するものと考えられた. (5)70%NiーCrーFeー0.007%S合金の溶接金属部の高温延性は,Sの粒界偏析により低下する可能性があり,その効果は,Cr量の増加とともに減少することが予想された. (6)(2)に示した0.007%Sを含むNiーCrーFe三元系合金の再熱溶接金属の延性低下割れ感受性に及ぼすCrの影響を考慮した結果,Cr量の増加とともにSの粒界偏析が低下して延性低下割れ感受性が低下する効果,並びにCr量の増加とともに粒界炭化物の増加及び硬さの上昇により延性低下割れ感受性が上昇する効果があいまって,10%Cr近傍の延性低下割れ感受性が低下するものと推察された.
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