1.octadecyl基を導入したdioxocyclamのコバルト(III)錯体、tetraphenylporphyrinのマンガン(III)錯体ならびにモリブデン(V)錯体などのクロロホルム溶液を用いる陰イオンの溶媒抽出を検討し、これらがいづれもantiーHofmeister型の陰イオン選択性を与えることを認めた。なかでもtetraphenylporphyrinのモリブデン(V)錯体がフッ化物イオンに高い選択性を示すことを見い出した成果は注目に値する。また錯体の陰イオンとの錯形成能は膜電位における選択性よりも溶媒抽出の選択性により強く反映される傾向があることも判った。これらの金属錯体の液膜ならびに可塑化PVC膜の伝導度は、古典的陰イオン交換体を含む液膜ならびに可塑化PVC膜の伝導度よりそれぞれ格段に低く、陰イオンキャリヤ-型電極では膜媒体のブランク応答が問題になることを明かにした。陰イオンキャリヤ-との相互作用の弱い疎水性イオン対を添加して膜の伝導度を高めることにより、このブランク応答の問題を解決できる有望な見通しを得た。 2.Pyridylethyl基をdioxocyclamの6位に導入した配位子のコバルト(III)錯体の分子構造を単結晶X線構造解析法により決定し、6位にかさ高い置換基を導入しても陰イオンの軸方向配位の立体障害とならないことを明かにした。また溶液状態でも6位の置換基は軸方向配位子交換反応に立体障害を与えず、6位への化学修飾はdioxocyclamの高機能化に有利であることが判明した。 3.陰イオンキャリヤ-の錯形成が膜電位における選択性よりは二相分配系における選択性に強く反映される一般的実験事実を首尾よく説明する理論を構築した。この理論はより優秀な性能の陰イオンキャリヤ-型イオン電極開発の指針となるものである。
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