無機/炭素層間化合物を合成するためには、無機/有機層間化合物を合成し、その炭素化挙動を解明しておくことが必要である。本年度はMoO_3層間にフェナントロリンを挿入した、MoO_3/フェナントロリン層間化合物(MFと略)の炭素化挙動を、MoO_3/カ-ボンブラック混合物(MCと略)のそれと比較しながら検討し、つぎの知見を得た。 1.MoO_3は800℃で溶融するが、MC中のMoO_3は、400℃まではそのままで、550℃でMoO_2に還元され、1000℃でも溶融することなく、その状態が保持される。 2.MFは550℃でMoO_2になり、そのまま700℃でも存在する。しかし、1000℃でMoO_2へと還元される。この550℃という温度は層間のフェナントロリンを炭素化して、MoO_3/炭素層間化合物に変換するには低すぎる。従って、MoO_3/炭素層間化合物の合成は不可能である。 しかし1、2で述べたように、MFは、従来研究されてきたMoO_3/炭素混合物とは著しく異なった挙動をとる。700℃処理後のMFとMCは、共に炭素含有量約3%を含むMoO_2として存在する。しかし、さらに高温での処理で、MC中のCはCO_2として発生するが、MF中ではMoと反応してMo_2Cを生成する。これは、(i)MFから生じるMoO_2の結晶性がMCからのものに比べて低い、(ii)フェナントロリンから生じる炭素質は、カ-ボンブラックに比べて著しく微小で、反応性が高い。(iii)MCに比べて、MFから生じたMoO_2/炭素混合物では、両成分が非常にファインな、また緻密な接触状態にある。などの理由による。 本年度は、申請した計画通り、さらに広範な層間化合物の炭素化挙動について検討を行う予定である。
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