研究概要 |
本年度は2種の無機/有機層状複合体の熱分解挙動について検討した。現在までのところ,標記の無機/炭素層間化合物の合成には至っていないが,合成のための基本的知見,さらにはこの種の複合体の熱分解挙動の特異性を明らかにすることができた. 1.WOP_2O_7/フェナントロリン複合体: WOP_2O_7をNa_2 S_2 O_4で還元して層間にNa^+を導入,ついでC_<12>H_8N_2(phenと略)で置換した.分析の結果(WOP_2O_7)^<ー0.7>/0.5phen^<ー0.7>・0.2H^+が得られた.比較試料として上述の複合体試料と同じ炭素含有量になるようにWOP_2O_7/カ-ボンブラック混合試料を調整した.両者を不活性雰囲気中で2400℃以下の各温度で熱処理した.複合体は通常の混合物に比べて,反応開始温度が200℃も低温側にずれ,そのために結晶相の析出温度も低温側にずれること,また高温処理後に析出するWCの形態が原料複合体結晶の履歴を残しやすいことが明らかになった. 2.Ti_2 O_5/フェナントロリン複合体: K_2Ti_2 O_5中のKを陽イオン交換によりphenで置換した層状複合体を作成した.これと炭素含有量が等しくなるようにH_2Ti_2 O_5/カ-ボンブラック混合試料を調整し,2400℃以下の不活性雰囲気中で熱処理した.ここでも基本的には1の場合と同じ現象が観察されたが,2400℃処理後に生成したTiC結晶はほとんど原料の針状結晶の形態を保持した. 以上の結果,複合体の反応開始温度が低温側にずれるので,それ以下の温度で長期間,それも挿入炭素量の不足を補うためにカ-ボンブラックに埋め込むなどで完全な還元性雰囲気のもとで熱処理すれば無機/炭素層間化合物の合成は可能であろう.またこうした複合体を利用して炭化物単結晶を合成する可能性を示唆された.
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