ホスト・ゲスト反応の活用は、通常の方法では合成不可能な準安定化合物をもたらす。そのためそれらの化合物に種々の特異的機能の発現が期待される。本年度の研究では、層状構造のNa_2W_4O_<13>およびトンネル構造のK_2W_4O_<13>を出発物質とし、ホスト・ゲスト反応の活用により新タングステン酸化合物の合成を試みた。 Na_2W_4O_<13>中のゲストであるNa^+イオンと水溶液及び溶融塩浴中のLi^+、K^+、Ag^+、NH^4^+イオンとの交換を行った。その結果、水溶液中では交換反応はおこらなかったが、溶融塩浴中では容易にNa^+イオンが外部ゲストと交換することを見いだした。24時間反応で試料中のNa^+イオンは、最大それぞれLi^+イオンと97%、K^+イオンと98%、Rb^+イオンと79%、Ag^+イオンと11%、NH^4^+イオンと7%イオン交換し、層状構造の化合物が得られた。K_2W_4O_<13>においても同様にK^+イオンとLi^+、Na^+、Rb^+、Ag^+イオンとの交換を行った。その結果、K^+イオンは溶融塩浴中で外部ゲストと容易に交換することを見いだした。24時間反応で試料中のK^+イオンは、最大それぞれLi^+と49%、Na^+イオン68%、Rb^+イオンと37%、Ag^+イオンと75%交換し、トンネル構造の化合物が得られた。以上の結果、溶融塩浴中でのホスト・ゲスト反応の活用により新たに層状およびトンネル構造のタングステン酸化合物の合成に成功した。またK_2W_4O_<13>中のK^+イオンは水溶液中のH^+イオンと交換可能であり、硝酸処理により得られたトンネル構造のH_<0.25>K_<1.75>W_4O_<13>は、水溶液中のK^+イオンに対してイオン記憶機能を有する可能性があることを新たに見いだした。現在、溶融塩浴より得られた化合物の電気伝導度および結晶構造を解析中であり、今後ホスト・ゲスト相互作用と構造との関連性を検討する予定である。
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