本研究の目的は、不斉素子としての光学活性スルホキシドを触媒的に不斉合成することと、不斉触媒配位子としての利用方法に関する基礎原理を見出し、本物質の高度有効利用の道を開くことの2点である。 まず錯体金属上でのスルフィドからスルホキシドへの立体選択的変換を行うための基礎実験として、キレ-ト性ジホスフィンルテニウム錯体へのスルフィドおよびスルホキシドの配位挙動を調べた。その結果シクロペンタジエニル基を持つカチオン性不斉キレ-トジホスフィンルテニウム中心に、さまざまなスルフィドおよびスルホキシドが容易に配位して不斉認識が可能なこと、同時にルテニウム中心からの脱離も比較的早く起ることなどがわかった。これらの特性は、ルテニウム上でスルフィドからスルホキシドへと触媒的に変換させるための必要条件を満たしている。これらの立体識別の要因を、X線解析およびNMR分光法で構造化学的に明らかにした。さらにカチオン性のベンゼン配位ジホスフィンルテニウム錯体は、ヨ-ドシルベンゼンによるスルフィドからスルホキシドへの酸化反応の触媒として機能することが判明した。次にオレフィンパラジウム錯体の特性をいかした触媒的アリルカップリングを利用して、ビニルスルホキシドの不斉素子としての特性と反応活性オレフィンとしての役割を同時に活用することを検討した。その結果、塩化アリル誘導体と活性有機金属反応剤との低温におけるカップリングが、単なるパラジウム触媒だけではほとんど効果的に進行しなかったのに対して、ビニルスルホキシドの添加でこの反応が著しく促進されることがわかった。また低効率ではあるがカップリング生成物に不斉誘導が見られた。これらの現象の解明のためのモデル中間体として、白金(πーアリル)(ビニルスルホキシド)錯体の発生を行い、NMRによる構造推定を行った。
|