研究概要 |
本研究はテルルの原子価交換を利用することにより、炭素ー炭素結合生成の新しい手法を開発することを目的として行った。特に、+4価の有機テルル化合物として、ケトンと四塩化テルルより容易に得られるジケトニルテルリウムジクロリドに着目し、その反応性を詳細に検討した。その結果、テルル上の2つのケトニル基を2ーオキソアルキリデン基として有機化合物に効率良く導入できることを見いだした。本反応原理に基づいて開発した新しい合成反応を次にまとめる。1.ジケトニルテルリウムジクロリドと2当量のLDA(リチウムジイソプロピルアミド)を反応させた後、アルデヒド類を加えたところビッテイヒ型反応が生起し、対応するエノンを高収率で与えた。本反応では、アルデヒドが選択的に反応し、ケトンは全く反応しない。また、得られるエノンは全てトランス体であった。2.ジケトニルテルリウムジクロリドとLDAを低温下反応させ、得られた反応溶液を室温まで昇温したところ、O価のテルルと共に1,2,3ーテトラアシル(またはテトラアロイル)シクロプロパンが高収率で得られた。本反応は、リチウムエノラ-トと四塩化テルルとの反応により、系中で調整したジケトニルテルリウムジクロリドを用いても良好に進行することから、シクロプロパン類の簡便な合成法となるものと期待される。3.ジケトニルテルリウムジクロリドと二級および三級アミンを室温下反応させたところ、シクロプロパン誘導体は全く得られず、2ーオキソアルキリデン基がカップリングした形の1,4ージオキソー2ーエン類が得られた。これらの反応は、合成化学的に有用であるばかりではなく、有機テルル化学においても貴重な知見となるものであり、本反応機構の解明と合成化学的利用のための研究が引続き必要と考えられる。
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