生体膜の電子・イオンチャネル機能を規範とする人工機能物質を合成し、脂質2分子膜を介した流束制御を検討した。先ず酸化還元補酵素のフラビンを、剛直な骨核を有するステロイドを介して2個連結し、更に末端に親水基を付与したビスフラビンを合成した。これは膜を貫通する電子チャネルを形成し、フラビン-フラビン間が約18Å離れているため、酵素一酵素間の沿革電子伝達反応の優れたモデルとなり得る。ビスフラビンを解媒として人工リポソ-ム膜を通る効率のよい電子伝達反応を観測し、前報で提案した2分子膜内外層に存在するフラボ脂質間の電子伝達機構を証明した。電子伝達速度が脂質2分子膜の相転移に依存しないことから、膜貫通電子伝達チャネルの形成が動力学的に証明された。またこの種の遠距離、ΔG^0〜0の電子伝達反応の活性化エネルギ-を始めて評価することに成功し、110kj・mol^<-1>の値を得た。 フラビン単位を介した電子伝達反応に共役してプロトン流束が得られることを見出し、〔1プロトン/400電子〕の共役効率でプロトンチャネルを得ることに成功し、ATP合成系を駆動してATPを合成するに足る化学エネルギ-が2分子膜間に蓄積されることを見出した。 光受容中心として、アゾ基を疎水部に有するリン脂質を合成して脂質2分子膜を機能化し、光励起アゾ種から内水相色素への高効率エネルギ-移動を観測した。またポルフィリンを近接距離に連結したメタ-、オルトフェニレン-ケ-ブルポルフィリンとその金属錯体を合成し、10ピコ秒の極めて速やかなエネルギ-、電子移動反応の観測に成功した。更に人工ヘムをアポミオグロビンを用いて再構成し、酵素-酸素間の電子移動反応速度に及ぼす媒体の影響を制御するモデルの構築に成功した。これらの系は光エネルギ-変換機能を有する分子システム構築のための基盤を与えるものである。
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