研究概要 |
エレクトロニクス技術と結びついて、近赤外吸収色素が高機能性有機材料として注目されている。本研究では、近赤外領域に強い吸収を示すキノイド系金属錯体色素の合成とその機能性を追究し、以下の成果を得た。 1.1,2ーナフトキノンー4ースルホン酸ナトリウムと様々なアリ-ルアミン類との反応はNi(II)イオン存在下で促進され、アミノ化物、アリ-ル化物、及びビニ-ル化物(1,2,及び3)を高収率で与えた。これらの生成物はNi(II)、Cu(II)などの金属イオンとキレ-ト錯体を形成すると大幅なスペクトル変化が起こり近赤外領域に強い吸収を示すことが判った。色素配位子(1,2,及び3)と金属イオンの組合せを変化させて錯体形成能、錯体形成に伴う吸収スペクトル変化の大きさを比較し、近赤外吸収錯体色素合成には3が最も優れた配位子であることを明らかにした。 2.キノリンー5、8ージオンとpージメチルアミノスチレン類とのDielsーAlder反応により色素(4)と(5)を得た。また、mージメチルアミノスチレン類との反応からはアリ-ル化中間体を経て色素(6)を得た。異性体色素(4、5、及び6)で金属キレ-ト錯体形成に伴う可視スペクトル変化に大きな差が現れた。異性体4では金属塩添加に伴いキレ-ト錯体の吸収が長波長側に現れるが、吸収強度の増大は認められなかった。それに反し、異性体5と6では金属塩添加につれ吸収強度が著しく増大しながら大幅に深色移動し、近赤外領域に強い吸収を示すに至る著しい変化を示した。PPPーMO法による摂動計算により変化の方向を再現することができ、大きなスペクトル変化を生み出すには、金属キレ-ト形成部と電子供与性基の位置関係が非常に重要であることが明らかになった。また、ここで得られた錯体色素は近赤外領域に強い吸収を持つことに加え、金属キレ-ト錯体形成の前後で著しく色調が変化する機能も有することから、これを利用した機能の開拓も可能であると考えられた。
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