近年の合成化学の進歩は様々の有機化合物のTailorーmade合成を可能にしつつあるが、それらの一段階合成、特に炭素骨格上への官能基の直接導入が今後の重要な課題となっている。本研究では水酸基やカルボニル基などの含酸素官基を効率よく炭化水素中に導入するため、低温プラズマの適用を試みた。プラズマは主に酸素ガス(約100Pa)の高周波(13.56MHz)放電により発生させた。反応基質である炭化水素は反応管入口から気化導入しプラズマ気相中で反応させ、反応管下部に設置した液体窒素トラップ中に捕捉回収した。まず芳香族炭化素の酸化について検討した。ベンゼンからは揮発性有機物としてフェノ-ルのみが生成した。同時に完全酸化も進行し、水、二酸化炭素が副生するが、ベンゼン転化率を充分に低く(〈10%)抑えれば、フェノ-ル生成の選択性はかなり改善される。トルエンなどのアルキルベンゼンを基質とした場合にはベンゼン還への水酸基導入によるフェノ-ル類とともに側鎖アルキル基の酸化にもとづくアルデヒド類やケント類が得られた。アルキル基が長くなるにつれて側鎖酸化が環酸化より相対的に重要になる。またアルキル基の酸化は主に環に対してα位の炭素上で起こっていることから基質のプラズマ分解で生じたベンジルラジカルの自動酸化反応機構で進行しているものと推定された。スチレンのようにオレフィン性の二重結合を有する基質ではエポキシドおよびその分解物と考えられるケトンが高収率で得られる。この場合には酸素プラズマ中の原子状酸素の役害が大きいものと考えられた。さらに飽和炭化水素の酸化についても検討した。イクロアルカン類(C5〜C8)からは芳香族炭化水素のときと比べると全般的に低収率ではあるが各々シクロアルカノンとシクロアルカノ-ルがほぼ等量ずつ生成し、この場合もラジカル自動酸化反応の機構が推定された。
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