1.本年度の研究は非線形複素誘電率の周波数スペクトルの高精度測定を可能にする装置の開発を中心に行った。装置はRAMとDA変換器により歪を最小限に抑えた正弦波を発生する部分と、分極応答を電荷増幅器により電圧に変換し一周期を厳密に等分割した時刻においてサンプリングAD変換を行いデジタル信号に変換する部分からなる。得られたデジタル信号にフ-リエ変換を行えば、線形及び非線形誘電率が自動的に計算される。これまでにハ-ドウェアの設計と試作を終わり、現在詳細な特性評価を行っており、線形応答に対し10^<-4>以上の精度で非線形応答を得ることを目標としている。 2.非線形応答が比較的強くあらわれる高分子については、既に測定を開始している。これまで我々はシアン化ビニリデン共重合体が大きな線形誘電緩和を示し、非線形スペクトルの測定から双極子の運動の相関長が大きいことを報告してきた。今回酪酸ビニルをコノマ-とする共重合体について測定を行い、非晶性と考えられている構造に存在するある種の秩序について検討した。この種の共重合体の誘電緩和は200°C近い高温域にあらわれるので、低周波域にイオン伝導の寄与が誘電スペクトルに混入する。両者の分離を確実に行う目的に加え、非線形導電スペクトルの一般的な挙動を明らかにする目的でポリエチレンオキシドを中心とするいわゆるイオン導電性高分子についても測定を行った。今後標準的な極性高分子を対象とし、導電性の寄与を含めて非線形複素誘電率の測定を行い、スペクトルの一般的な形状と機構の解明をめざす予定である。
|